多様性の中の統一

「多様性の中の統一(BHINNEKA TUNGGAL IKA)」。これはインドネシアの国是である。約18,000の島々、500以上の言語、イスラムを始めとする様々な宗教。これら全ての一つにまとめるにはその多様性を認めた上での統一を目指さないといけない。極めて理にかなった国是である。そのため、インドネシアにおいては、断食明けの休暇であるレバランもクリスマスも旧正月もヒンドゥのためのニュピもすべて祝日。そうして国民の多様性を尊重した上で国家を運営してきたのがインドネシアである。

 

一方、鉄道分野はそもそも多様性を認めにくい形態にある。鉄道は車両、軌道、信号、電力など様々なサブシステムの上に成り立つひとつの巨大なシステムであり、例えば車両で技術革新があっても、それがその他のサブシステムに与える影響を慎重に鑑みる必要がある。また、鉄道においては「効率性」も大事だが「安全性」がより重視される傾向にあるため、一分野の技術的な飛躍が全体のそれには結びつかない可能性がある。もちろん前進がないわけではないが、少なくともその技術的な摺合せ・確認に多少の時間をかける必要がでてくる。そのため、鉄道分野は多様性を重視するよりも既存の技術の延長を望む傾向にある。

 

それでは日本の鉄道技術を海外に出すときに「日本のをそのまま」で良いのか、という議論がある。効率や安全性の担保を考えれば、そのままパッケージで持っていったほうが良いのは火を見るより明らか。先程述べたように技術分野の部分的な最適解が全体の最適解とは限らないのが鉄道分野の難しさである。しかし、それを重視する余り日本のパッケージの押しつけになっていては思考停止である。現地の風土、文化、既存の技術や法律、当該地の鉄道分野の産業など、様々な要素を考慮して自らが知る技術を調整しながら現地に適応させることが求められている、と言える。それはまさに多様性の中の統一作業だ。

 

多様性を保ったまま統一させるのは本当に大変であると思う。統一を効率的に目指すのであれば技術や思想を単一にしたほうが楽である。しかし、生物の歴史を振り返ってみても、性が誕生し血液型が生まれたのは多様性が無いと種の保存という意味で極めて脆弱であったから、と考えられている。日本の鉄道業界もここで多様性を鑑みた上で統一する努力を怠ると一気に絶滅危惧種になってしまうのではなかろうか。道は険しいが、その一助となるようにこれからも励みたい。