ベトナムマンション購入顛末記(2)

前回の続き)

 

「こちらの瑕疵で契約を破棄するものなので、契約で記載されている条項に従って、お預かりしたお金をお戻し、かつ別途違約金を支払います」というのが先方のディベロッパーの言い分。そして言われるがままに「契約破棄合意書」にサインをさせられる私。それが2011年12月のことだ。しかし問題は、その預かったお金と違約金の支払いが「いつまでに」行われる、というのがその合意書には明確に書いてなかったことであった。

 

先方は、おそらく銀行からの貸しはがしに被い、今後工事を進めていく資金がどうしても足りずに泣く泣く契約不履行となったのであろう。だから、そもそも余分なお金なんて1ドンたりとも無いのである。つまり、契約を破棄して返金に両者合意をしても、「お預かりしたお金」なんてとっくに工事に回してこの世には存在しないのだ。同情はするがそれはそれ。親からの借金含めて全財産を預けた身としては、彼らからの返金が文字通りの生命線である。そして借金取りになる私。週に1度は担当者に連絡を取り、どうなっているのか確認する日々が始まった。向こうは「現在懸命に資金繰りをしている」の一点張り。そしてまんじりと4ヶ月が過ぎたある日、突然先方から連絡が入り、すぐに事務所に来てくれ、と。

 

先方から出た話は、「銀行からある一定のお金を得ることが出来た。あなたは毎週のように連絡をしてきたので優先的にお返ししたい。ただ、合意書で約束した金額のうち、預かった分はお返しすることが出来るが、違約金に該当する部分をどうしてもお支払いすることが出来ない。それで同意してくれれば今日にでも支払う。あなたに合意いただかなければ、同じ提案で合意してくれる他の客を優先せざるを得ない」。違約金には利子に該当する金額もあったので、こちらの概算で約100万円。100万円を諦めて今日ケリをつけるか、100万円を求めてさらに粘るか。しばし思案する私。そして出した決断は…「わかった。それでいいから今日支払ってくれ」。

 

そしてその日のうちに約束の額は振り込まれた。その後、返金があること前提で既に手続きを進めていた、ホーチミン南部最大手ディベロッパーによる別の分譲マンション(竣工済み)の契約を締結し、2012月5月、私はベトナム・ホーチミン市にて無事にマンションを購入することが出来た。

 

今でもたまに思う。2012年4月のあの日、100万円を惜しんでその日の支払いを受けていなかったらどうなっていただろうか。もしかしたら会社自体が倒産し、100万円どころか全額返金を受けることがなかったかもしれない。そうなっていたら私の人生も変わっていたかも。2018年8月現在、私が買う予定だったマンションの工事は未だ止まっており、複数の高層棟はホーチミン市の郊外で墓標のように立ちすくんでいる。

 

【2011年10月の引渡し時】

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