計画・実施と内科・外科

大きく整理すると、開発コンサルとして最初に入社した会社は交通計画が得意であり、今いる会社は鉄道整備の実施(のコンサル)が出来る企業である。どちらが尊いか、という話ではなくて、同じ交通インフラを対象としていてもそのアプローチは全く異なる、というのが今回のエントリーの趣旨。

 

鉄道のような交通インフラ整備は、大きく「計画」と「実施」の二段階に分けられる。

 

「計画」段階では、当該都市の現状の交通問題点を把握し、将来の都市像を想像し、将来起こりうる交通問題を検討し、それを解決するためにどのようなインフラが必要が、それがいつどのように整備されるのがふさわしいかを提言する、のが仕事である。結果として鉄道が必要という提案にもなりうるし、BRTでよい、あるいは交通管理で対応可能、という政策メニューを提示することになる。都市のマスタープラン作成のような大規模な案件になれば、大規模な交通調査(例えばパーソントリップ調査など)を実施して、現状の問題を包括的に把握することに努める。その作業はまるで、健康診断を受けた患者に対して、何が問題で、このまま放置するとどのような健康被害が起こりうるか、そのために必要な処置は何かを検討し提言する内科医の姿にも重なる。インフラ整備というお金がかかる手術が必要だと思われればそれを提案するし、薬の処方で十分なケースもある。

 

一方の「実施」はまさに外科医の仕事に近い。建設や調達、運営維持管理の体制づくりの現場は文字通り「切った張った」の世界である。日々色んなことが起こる。鉄道インフラづくりにおける各分野との調整というのは、針の穴を通すような繊細なコントロールで皆を唸らせる剛速球を投げないと抑えられない場面がいくつもある。じっくり腰を据えて分析して考える能力よりも、起こった状況に対していかに最適な判断を下すか、知的な反射神経が問われる場面が多い。もちろんその一つ一つの判断を下すためには十分な知識と経験が不可欠である。失敗したら文字通り命にも関わる重要な判断にもなりうる緊張感と責任感は半端ない。

 

知的パズルのような「計画」も捨てがたいが、私は血が燃える「実施」に個人的にやりがいを感じる。そして、特にホーチミン1号線については計画段階から関わっているので、その成果に対する責任感はとても大きいものである。この案件は、ベトナム国家としての予算の問題でいま大変難しいところにいるが、将来確実に起こる交通渋滞の悪化に対して市の中心部に地下鉄を通すという「バイパス手術」を行っているわけだ。多少血が出てもおかしくない。この手術が無事に成功し、ホーチミン市が将来も健全に活動を行う状況を確保できるよう、これからも自分が出来ることに努めようと思う。